難題?競合との比較要求への賢い営業対応:関係を損なわない伝え方と事例
顧客との会話で、競合他社のサービスや製品、価格と比較される場面は避けて通れません。特に、競合の方が優れている、安いといった指摘は、営業担当者にとって対応が難しく、感情的になりやすい難題の一つと言えます。このような状況で適切に対応できなければ、顧客との信頼関係を損ない、最終的には失注につながる可能性もあります。
この記事では、顧客から競合と比較された際に、冷静さを保ちつつ、関係を悪化させることなく建設的に対応するための営業手法、心構え、そして具体的なコミュニケーションフレーズについて詳しく解説します。
なぜ顧客は競合と比較するのか
顧客が競合と比較検討するのは、ごく自然な購買行動の一部です。その背景には、主に以下の目的があります。
- 最良の選択をしたい: 複数の選択肢を比較検討することで、自社の課題解決に最も適した、あるいはコストパフォーマンスの高いサービスや製品を見つけたいと考えています。
- 自社の要望を伝えたい: 競合の情報を引き合いに出すことで、「こういう機能が欲しい」「このくらいの価格なら買える」といった自社の具体的な要望や期待値を遠回しに伝えている場合があります。
- 交渉を有利に進めたい: 競合の条件を提示することで、自社製品やサービスの価格や条件を引き出そうとする交渉戦略として用いられることもあります。
- 情報収集: 単純に市場にある選択肢について、より深く理解したいという目的で情報収集を行っている段階かもしれません。
顧客の比較行動の背景にある意図を理解することは、感情的にならず、冷静に対応するための第一歩となります。
競合と比較された際に冷静に対応するための心構え
競合と比較された際に感情的にならず、関係悪化を防ぐためには、以下の心構えが重要です。
- 比較は当然と受け止める: 顧客が複数の選択肢を検討するのは当然のプロセスです。個人的な攻撃と捉えず、ビジネス上のやり取りとして冷静に受け止めましょう。
- 競合を否定しない: 競合他社やその製品・サービスを否定したり、悪く言ったりすることは絶対に避けてください。これは品位を損なうだけでなく、顧客からの信頼を失う行為です。「競合のことはよく知らない」「競合はダメだ」といった発言は、かえって顧客に不信感を抱かせます。
- 自社の強みを正確に理解する: 競合と比較された際、自社の価値を明確に伝えるためには、自社製品・サービスの独自の強み、競合との違い、そしてそれが顧客のどのようなメリットに繋がるのかを深く理解している必要があります。
- 顧客の真のニーズを見抜く: 顧客が競合と比較して伝えてくる情報は、表面的なものです。その背景にある「なぜその機能が必要なのか」「なぜその価格を求めているのか」といった顧客の本当の課題や優先順位を理解しようとする姿勢が重要です。
競合と比較された際の具体的な対応ステップとフレーズ例
顧客から競合と比較された際は、以下のステップで対応を進めることを推奨します。
ステップ1:傾聴と共感
まずは顧客の話を丁寧に聞き、なぜ競合と比較しているのか、どのような点に関心があるのかを理解することに努めます。顧客の言葉を遮らず、最後まで聞くことが重要です。
- フレーズ例:
- 「〇〇様がいくつかご検討されているのですね、承知いたしました。」
- 「差し支えなければ、どのような点で〇〇社様(競合)と比較検討されているのか、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか。」
- 「なるほど、〇〇(競合の良い点として顧客が挙げた内容)のような機能にご関心があるのですね。」
ステップ2:情報収集とニーズの確認
顧客が比較している特定の機能、価格、サポート体制など、具体的な比較対象について質問し、顧客の本当のニーズや優先順位を探ります。
- フレーズ例:
- 「〇〇社様の製品では、特に△△(特定の機能など)の点が魅力に感じていらっしゃるのでしょうか?」
- 「〇〇社様の価格を基準にご検討とのことですが、△△様(顧客)にとって、予算の上限はどのくらいでいらっしゃいますか?」
- 「その機能は、御社ではどのような目的でご利用をお考えですか? 達成したいことは何でしょうか?」
- 「弊社サービスに期待されていることや、重要視されているポイントについて、改めてお聞かせいただけますか。」
ステップ3:自社の価値の再提示(ポジショニング)
競合を直接的に否定するのではなく、顧客のニーズを踏まえた上で、自社製品・サービスの独自の強みや提供できる価値を伝えます。競合にはないメリットや、自社だからこそ提供できるサポートなどを具体的に示します。
- フレーズ例:
- 「〇〇様が△△(顧客のニーズ)を重要視されているとのことですので、弊社の□□(独自の強み)は、特にお役に立てると考えております。具体的には~(具体的なメリットを説明)。」
- 「価格面では、確かに〇〇社様の方が安価な部分もあるかと存じます。しかし、弊社は導入後の手厚いサポート体制に強みを持っており、長期的な視点で見ると、運用コストの削減や〇〇(顧客の課題解決に繋がるメリット)といった点でメリットを感じていただけるかと存じます。」
- 「〇〇社様とは、アプローチしているターゲット層や提供価値の軸が異なると認識しております。弊社は特に~(自社が強い領域)に特化しており、御社の△△といったご要望には、より深くお応えできるかと存じます。」
ステップ4:違いの説明(中立的な立場から)
顧客が言及した競合の特定の点について、事実に基づき中立的に違いを説明します。感情的な評価や個人的な意見は控え、客観的な情報を提供します。ただし、一方的に自社有利な情報だけを並べるのではなく、顧客にとって何が最適か、という視点を忘れないことが重要です。
- フレーズ例:
- 「〇〇社様のその機能は、~といった点が特徴かと存じます。一方、弊社の同様の機能は、~といった点が異なります。御社の△△という目的には、弊社の□□という点がよりフィットする可能性がございます。」
- 「価格体系についてですが、〇〇社様は初期費用が抑えられている一方、月額ランニングコストが~といった特徴があるかと存じます。弊社は初期費用が~ですが、月額は~となり、長期的な総コストで見ると違いが出てくる可能性もございます。」
ステップ5:顧客にとっての最適な選択を支援する姿勢を示す
最終的に、顧客にとって何が最良の選択肢なのかを、顧客自身が見極められるよう支援する姿勢を見せます。無理に自社を選ばせようとするのではなく、顧客の課題解決に真摯に向き合うパートナーとしての信頼を築くことを目指します。
- フレーズ例:
- 「様々なサービスを比較検討されるのは大変かと存じます。もしよろしければ、御社の△△という課題に対して、弊社のサービスがどのように貢献できるのか、改めて具体的な事例を交えてご説明させていただけますでしょうか。」
- 「最終的にどのようなご判断をされるにしても、御社にとって最もメリットのある選択をしていただくことが重要だと考えております。判断材料として、他に弊社のことで確認しておきたい点や、競合と比較する上で不明な点がございましたら、遠慮なくお尋ねください。」
避けるべきNG対応
- 競合を直接的に否定する: 「〇〇社なんてダメですよ」「あそこはサポートが悪いと評判です」といった発言は絶対NGです。
- 感情的な反応をする: 顧客の言葉に動揺したり、不機嫌な態度を取ったりすることは信頼を損ないます。
- 価格競争に安易に飛びつく: 競合より少しでも安くしようと条件を提示することは、自社の価値を低下させ、疲弊を招きます。価格以外の価値で勝負することを常に意識しましょう。
- 事実に基づかない情報を伝える: 競合に関する不確かな情報や誤った情報を伝えることは、後々のトラブルの原因となります。
事例:機能で比較された際の対応
状況: 顧客「A社さんのシステムは、うちが求めている△△という機能が標準でついているんですよね。御社のだと追加オプション費用がかかるようですが、なぜですか?A社さんの方が魅力的です。」
NG対応: 「え、A社さんのが標準なんですか?でもあそこは他の機能が使いにくいって聞きますよ。うちのはオプションでもその機能は高性能なんです。」(競合否定、感情的な反応、一方的な自社推し)
賢い対応(上記ステップを踏まえて):
-
傾聴・共感: 「A社さんのシステムでは△△機能が標準なのですね、承知いたしました。その機能にご関心があるのですね。」
-
情報収集・ニーズ確認: 「差し支えなければ、その△△機能で具体的にどのようなことを実現されたいか、御社の業務フローを踏まえてもう少し詳しくお聞かせいただけますか? 弊社でその機能がオプションになっているのは、特定の高度な要件に対応するためでして、多くの企業様にとっては別の機能で代替できたり、使い方によっては不要であったりするためです。御社の目的によっては、標準機能でも十分な場合もございます。」
-
自社の価値再提示・違いの説明: 「ありがとうございます。御社の△△といった目的でしたら、弊社の基本機能である□□と、オプションの△△機能を組み合わせることで、A社様のものとは少しアプローチは異なりますが、より柔軟かつ詳細な設定が可能となり、御社の特定の業務にぴったり合わせ込むことができると考えております。A社様のが標準機能である一方で、細かなカスタマイズには限界がある、といった違いがございます。」
-
最適な選択支援: 「もちろん、標準機能で十分か、あるいはカスタマイズ性が必要か、は御社の運用方針によって最適な方が異なります。もしよろしければ、御社の△△機能のご利用イメージについて、もう少し詳しくヒアリングさせていただき、弊社システムでどのように実現可能か、最適なプランをご提案させていただけますでしょうか。」
このように、顧客の比較の背景にある意図を理解し、感情的にならず、自社の強みを客観的な事実や顧客のニーズに紐づけて伝えることが重要です。
まとめ
顧客から競合他社と比較されることは、営業活動において避けられない場面です。しかし、これを単なる「難しい要求」や「クレーム」と捉えるのではなく、顧客の購買意欲の表れであり、自社の真価を伝えるチャンスと捉え直すことが重要です。
感情的にならず、冷静に顧客の言葉に耳を傾け、その比較の背景にある真のニーズを理解すること。そして、競合を否定することなく、自社製品・サービスの独自の価値や顧客にとってのメリットを、具体的かつ誠実に伝えること。これらのステップを踏むことで、顧客からの信頼を得て、関係を損なうことなく、最適な提案へと繋げることが可能になります。
今回ご紹介した心構えや具体的なフレーズ例が、日々の営業活動における競合比較という難題への対応の一助となれば幸いです。